みなみの備忘録

とあるライブラリアンの備忘録です。

10/20 JSPS人社系シンポジウム参加メモ

JSPSの人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築プログラム シンポジウム ―データの活用による人文学・社会科学の飛躍的発展―(於政策研究大学院大学)に参加しました。

課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業|日本学術振興会

"今後5年をめどに、日本学術振興会を中核に人文学・社会科学の分野における学術的調査データのうち、重要かつ研究者の利用に供することが有用である電子化された調査データの保存・管理等の取組を行う人文学・社会科学分野の拠点を形成"とのことで、今回はハーバード大学のRobert Putnam教授の講演を拝聴しつつインフラのあり方を考える、とのこと。
政治学分野の大物が来日されるとのことで、登壇者もほぼ政治学分野、聴衆も大分偏っていた様子。そんな折、文科省研究振興局の挨拶では、「インフラの話は自然科学系中心になりがちだったところ、人社系は今回が最初で最後のチャンスだと思って活動をお願いしたい」との強烈なメッセージが・・・

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Putnam教授の基調講演では、"How did we get here? : the curious case of social change in 20th Century America"とのタイトルで、ご自身の活用事例に基づいたデータアーカイブの重要性が述べられた。
現在のアメリカの様々な問題(経済格差、政治的分極化、社会的孤立、文化的ナルシシズム)対策へのヒントを得るために、1900年初頭からの様々なデータから傾向を見た、というもの。使用したデータや指標そのものの妥当性についてはコメントできる知見を持ち合わせていないものの、過去のデータが再利用される事例として興味深く拝見した。ある一つの「信頼できる指標」を考えるのではなく、複数の指標からその傾向を判断する≒質より量的なデータの使い方は印象的でした(理解が違ってたらすみません)。

第2部のパネルディスカッションでは、モデレーターの前田先生(東大社研)からの導入として、①現在を理解するための過去データの重要性、②社会科学のデータリポジトリに求められる役割の変化(アーカイブ→サービス)、③データを保存・共有する意義(オリジナルの重要性、データ収集のコスト、異なる角度からのデータ分析、再利用性、公共性)、などが紹介された。Putnam教授の講演でも示唆されていたが、データは不完全である以上、複数のデータソースで確認する必要性を強調されていたような。
その後、久米先生(早稲田大学)、稲葉先生(日本大学)、佐藤先生(東北大学)、鹿毛先生(東京大学)からそれぞれコメントがあった。Putnam教授との関わりに引き付けながらコメントを、と事前に宿題が出ていたとのこと。個別のコメントは記しきれないが、全体的にデータアーカイブの話ではなくデータ利活用のことが中心になっていた(もっとも、Putnam教授の講演もアーカイブの具体的なところには特に触れていなかったが)。
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全体的な感想としては、プログラムの趣旨とはやや異なり(?)、データをアーカイブし共有する意識が全体的に薄い印象を受けた。登壇者からも、インフラの維持には資金が必要、などの、あえて言えば当たり前のコメントが目立つ。研究者の主たる関心はデータ分析とそこから得られる知見なので当然といえば当然だが、モデレーターとの意識の差が妙に際立ったという印象を受けた。
このプログラムでは人社系データの国内拠点機関を設けて推進していくとのことだが、保存、共有を担う人材がこのプログラムで担保されるのかどうか、引き続き注目していきたい。