みなみの備忘録

とあるライブラリアンの備忘録です。

6/21 日本データベース学会セミナー参加メモ

日本データベース学会が主催したセミナー「アカデミアや企業における研究開発のためのデータの収集・提供・利用」@お茶大に参加しました。

http://db-event.jpn.org/dbsj2019/%E6%8B%9B%E5%BE%85%E8%AC%9B%E6%BC%94/

同日のJ-STAGEセミナーに参加できず悲しい気持ちになっていたところに、急遽前日になって飛び込んできたお話。現在進行形で非常にありがたいテーマ。
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 本テーマは連続講義の予定で、初回となる本セミナーでは研究開発におけるデータの収集・提供・利用の流れを概観したうえで、データの収集方法や研究開発方法は適切かどうか、研究成果は誰がどのように利用できるのか、を考える上での法的枠組みの解説を行うとのこと。何でも去年から喜連川先生が学会の会長に就任したとのことで、冒頭でデータにまつわる法的枠組みの複雑さについて言及。データベース学会で?と思っていたが、このテーマ設定に妙に納得してしまった。
 さて、ご講演の内容について。データ収集の場面における規制は、データの種類及びデータの取得方法から判断することが可能であり、

i) 法律による規制

ii) 契約による規制

iii) 法律+契約による規制

の3パターンがありうるとのことで(スライドでは iv) 規制なし を含めた4パターン)、対象となる法律は知的財産法(特に特許と著作権)、不正競争防止法、にほぼ限定できるとのこと。
 データの種類について明確なカテゴリ分けはなかった(と思った)が、画像データや機械学習の際の学習用データなどが例として挙げられていた。ケースバイケース、という意味なんだろう。また、データの取得方法については1) 自分で取得、2) 契約によって取得、3) 契約以外によって取得、などの区分が挙げられていた(ここちょっと曖昧)が、この問題は結局のところ契約の有無に帰結する様子。「学習用データを作成するために、前処理としてコピーガードを外してよいか?」など、具体的な事例に基づいた解説は大変勉強になった。

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 後半では、データを用いた研究成果は誰がどのように利用できるのかについての解説。データを利用した研究成果を①データ、②データベース、③プログラム、④パラメータ、⑤ノウハウ、の5種類に分け、

研究成果 = 知的財産 → 知的財産権の対象となる知的財産 or 知的財産権の対象とならない知的財産
対象になるもの:法律が適用される   対象にならないもの:契約で縛る必要あり

という整理が示されていた(あの表はどこかで公開されて欲しい)。「知的財産権の対象とならない知的財産」としては、特許を取得していないアイディアなど。事実データ以外にも保護をきちんと考えるべき対象がありましたね・・・
法的保護があるものはそれで良しとして、契約によって規制の上書きが(ほぼ完全に)出来ることが明確になった点は個人的な収穫。契約によって法的枠組みを変更する際の良くあるパターンとしては、
知財権の譲渡(有償)
・ライセンス(独占・非独占
・発生しない知的財産(データ・データベース・パラメータ・ノウハウ等)
の3パターンとのこと。秘密保持契約書とかだと利用範囲や利用期間を縛ることも良く書かれているようなので、

参考:経産省サイト 営業秘密~営業秘密を守り活用する~
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html
素人視点ではデータの種別から判断して使い分けるよりも、法的保護のある/なしに関わらず、すべてオーバーレイする気持ちで契約書を作っておくと安心だろう。

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所感。研究データに特化されてはいないものの、相当に近い位置で法的権利関係が整理されたのは寡聞にして初めて。大変勉強になった。研究データの場合はどうか、と思い、先日のライセンスセッションで出たような質問をしてみたが、

https://minamin.hatenablog.jp/entry/2019/05/30/235307

想定するデータ像に齟齬があったようで、残念ながらうまくかみ合わなかった(ので窘められてしまった。。。)。個別の研究の実態に合わせた形での整理はやっぱりまだまだ必要なんだろう。